ベ・サンスンは、黒と白だけによる制作を続けてきた。 それは時に微細な線の集積であったり、時には流れるような優雅な曲線の絡み合いだったりするが、作り出される形態は常にやわらかく、しなやかである。 その形態からは、「生成」とか、「有機的」とか、あるいは「交感」「脈動」「流露」といった言葉が想起される。 それは作者の作り出す形態が、ある種の生命体を連想させるからに他ならない。 この連想はもちろん見る側の勝手な思い込みで、作者は何か特定の生命体を念頭において制作しているわけではないだろう。ただ、見るものがそうした印象を抱くことは作者の想定の内なのではなかろうか。 それほどにこの生命感は強烈で力強く、繊細極まりない筆触やマチエールからは想像できないほどである。 べ・サンスンの作品の特質は、まさにここにある。 画面に近づいて細部を観察するときには、感じやすくはかなげな表情を見せる画肌が、全体を見渡したときには驚くべき強靭さを体現しているのである。 そのギャップが見る者を惹きつけてやまないのであり、細部と全体という二者を往還することが、べ・サンスンの作品への理解を一層深めていく道ではないかと思われる。 富田章 サントリーミュージアム天保山主席学芸員, 2005 |